希望の国のジャケット写真

震災の被害に巻き込まれ、見えない未来に絶望しながらも、必死に希望を掴もうとする人々の姿を描く社会派群像劇。監督は「愛のむきだし」、「冷たい熱帯魚」、「ヒミズ」ほか、衝撃的な作品を世に送り続けている園子温。主人公を「劔岳 点の記」の夏八木勲、主人公の妻を「ツィゴイネルワイゼン」の大谷直子が演じるほか、村上淳、神楽坂恵、でんでんなどの、園子温映画常連の俳優陣が脇を固める。日本・イギリス・台湾の共同製作作品。

監督:園子温、脚本:園子温、出演:夏八木勲 大谷直子 村上淳 神楽坂恵 清水優

ここからネタバレ!閲覧にはご注意ください!

平和な村を突如襲った大地震と原発事故

長島県という架空の県で、のどかに暮らす小野家と鈴木家。そこに突如として大地震が起こり、さらに原子力発電所の放射能漏れ事故まで発生します。ある日、いきなり防護服に身を包んだ職員がやってきてテープを張り、原発から半径20キロ圏内の強制退去を命じます。

テープの中に家があった鈴木家は避難区域となり、テープの外に家があった小野家は避難の対象外でした。「隣は避難しているのに?」と職員につめよる小野家の嫁いずみですが、職員はマニュアル通りの答えをくりかえすだけです。

やむなく避難する鈴木夫婦には息子ミツルの他に恋人のヨーコもいました。ヨーコの実家は津波が直撃し家族は行方知れずになっていました。一方、小野家には老夫婦の泰彦と智恵子、その息子夫婦の洋一といずみが住んでいました。泰彦は、妻の智恵子が認知症を患っていることや酪農を営んでいて多数の牛を置き去りにできないことなどから退避せずに居座ることに決め、息子夫婦はこれから生まれる子どものためにも退避をすすめます。悩んだ末に洋一といずみは住み慣れた家を後にします。

出典:https://www.youtube.com/watch?v=Z0ectOihACs

離ればなれになる家族それぞれの苦悩

避難所で暮らす鈴木家ですが、ヨーコの家族の行方はわからないままなので、ミツルとヨーコは津波の現場に探しに度々訪れます。ロケが東日本大震災の被災地で行われたというだけあって、リアルそのものです。もともと遊び人だったミツルでしたが、根気よくヨーコの両親捜しにつきあいます。

その途中、ビートルズのレコードを探しているという風変わりな小学生ぐらいの男の子と女の子に出会いますが、「これからは一歩一歩」という謎のメッセージを言って突如消え去ります。ヨーコの両親の幽霊だったのでしょうか?

洋一は土木作業員になり、いずみにも妊娠が判明します。しかし、病院で知り合った妊婦から「母乳からセシウムが出た」と聞かされたいずみは、目の前が真っ赤になって、空気中には放射能だらけだという錯覚におそわれます。

洋一が帰宅すると、いずみは全身真っ白な防護服に身を包んでいました。「おまえは宇宙飛行士か?」と思わずつっこむ洋一ですが、いずみは大まじめです。いずみは外出時も防護服を着ていたので近所から白い目で見られ、買い物するときも野菜の放射線量をガイガーカウンターで測るほど神経質になっていました。

それぞれの家族に迫られる選択

息子夫婦が去った小野家では、泰彦が家事を行い、牛や智恵子の面倒を見ていました。しかし、小野家の周辺の家族も一軒一軒退去し、小野家にも退去要請が出される状況になってしました。ところが、泰彦は頑として退去を聞き入れず、職員も追い返します。

そんなある日、智恵子が「盆踊りに行く」と言って浴衣を着ていなくなります。智恵子がいなくなったと気付いた泰彦は、警官が立ち入り禁止区域に築いたバリケードを車で突き破って智恵子を捜し当て、一人で踊っていた智恵子と一緒に踊り始めます。

ミツルとヨーコも、立ち入り禁止区域になった津波の被害場所に何度も立ち入り、諦めずに何度もヨーコの両親の行方を捜します。やがて、ミツルはヨーコに「結婚しよう」とプロポーズ。両親はもういないのだと半ば悟っていた二人は新たな人生を歩み始めます。

洋一は、いずみが防護服に身を包んでいることで職場でもだんだん孤立し始め、病院でもひそひそと笑われます。また、医者から妻が放射能恐怖症にかかっていること、さらに国が発表しない内部被曝の実態も聞かされて、両親に今後のことを相談しに行きます。泰彦は洋一に対し、さらに遠く離れた場所での新生活をすすめます。

それぞれの「希望」

老いた両親を残して遠く離れて生活することに激しく抵抗する洋一ですが、生まれてくる子どものことなどを考えて、納得します。洋一は引っ越す直前に最後のあいさつをしに実家を訪れます。涙の別れを済ませた後、泰彦は牛舎にいる牛を全て自らの手で処分します。既に行政による殺処分の知らせが来ていましたが、他人の手に委ねたくなかったのかもしれません。そして、今度は庭いじりをしていた智恵子に銃口をむけます。

ところが、ゆっくり振り向く智恵子は全くおびえる様子もありません。それを見て「ずっと一緒にいような」と言う泰彦に対し、「当たり前」と返す智恵子。智恵子を抱きしめ、「死のうか?」と言う泰彦に「お父ちゃんと一緒ならいつでも死ねるよ」と答えます。キスシーンの後、銃声が空に轟き、庭や家が炎で燃え上がります。

洋一達は車に乗って別の土地へ。ようやくいずみは防護服を脱ぐことができました。立ち寄った砂浜で他の子ども連れ夫婦と寛ぐ二人。しかし、その放射能とは無縁と思われた砂浜で洋一の持つガイガーカウンターの警告音が・・・。いずみはその音に気付いたのかどうかわかりませんが、「愛があるから大丈夫よ」と洋一に言いますが、洋一は「そうかな?」とつぶやきます。

最後、「一歩、一歩」と言いながらミツルとヨーコが雪原を歩くシーンで終わります。

希望の国の作品情報

希望の国のジャケット写真
レンタル開始日/公開日
2013/03/07
監督
園子温
キャスト
夏八木勲 大谷直子 村上淳 神楽坂恵
上映時間
133分
GEOで購入!
希望の国のユーザ評価

評価数:750件
評価 :★★★☆☆(3.2/5)

クチコユーザの評価・ネタバレ
  • あの園子温監督の作品ですが、この社会派の作品、現実の大震災後の映像も取り入れていて、何とも複雑な思いの感想です。原発事故が引き起こす、原発から半径20km圏内の警戒区域からの強制退避と言う不条理な面と、そこに住む住民の気持ちを投影した、主人公の夏八木勲さんの演技が本作の核になっています。核なんて言葉にすら不条理を感じる、当世の原発問題ですが、園監督の描き込みは、起きてしまった事はこれも人災の成すことであって、その事の是非について軽々しくも、作品の中にそのアジテーションを描きこむのではなく、その被害を真っ向から被ってしまった被災者の怒りや不安や叫びとその生活を、不条理と言う感情ラインの中で淡々と描いていると言う事です。ですからオーバーダブされた音楽や音が、ノイジーなのか、感情表現の噴出なのか、見ていて(聞いていて)ちょっと感想に迷ってしまいます。酪農家の生活や、市井の人の穏やかな暮らしぶりをまじめに丁寧に描いた作品が、社会派的作品として静かに伝わってくる、不気味とも何とも言えない作品でした。
  • 出てくる男性陣が、いずれも良き夫、良き父、良き息子であり、総じて破綻の無い性格である。これらに愛される伴侶たる女性にドラマがあり、さらに幻想的な映像がかぶさる。 幼児性を表出する病気になった母の「雪の中の盆踊り」、切迫的な放射能恐怖症となった妊婦が見る「赤い空気」、恐らく父母を無くしたであろう恋人が見る荒涼とした廃墟に現れる「精霊のような子供たち」・・・。 震災、原発事故を背景にした寓話のような映画であり、老夫婦の道行やラストなどが、果たしてリアルなのかどうかは、観る側の感性によるところなのかもしれない。 また、この映画で一貫して流れるマーラーの交響曲第10番アダージョが、変に画面とマッチしているのが怖い。 ただ、園監督の個性的なパワーに欠ける感じがする。何というか、これまでの氏の過去作から、「毒」の部分をろ過して得られたろ液のような映画だと思う。
  • 東日本大震災から数年後、日本のとある町=長島県。 この設定の中には当初若干の違和感がありました。 架空の物語なのか現実なのかがわからなくなって、 見ているうちに、なんとも言えない苦しい気持ちになります。 なんでもない穏やかな日常と、美しい風景がなおさら切ない。 でんでんさんや神楽坂恵さんがいつか豹変するかもしれない‥ という雑念も、正直途中まではありましたけど。 キャスト陣が本当に素晴らしく、そんなことも忘れて見入ってしまいました。 「希望」なんて見えない、「絶望」しか無いのではないかと思えたけれど、 津波に襲われた海辺でのシーン。一歩、一歩、一歩という台詞に心が震えます。

同じく原発がテーマの映画「東京原発」もチェック!

この「希望の国」は、東日本大震災後に作られた作品ですが、それより大分前の2004年に作られた「東京原発」も原発の是非について考える上で非常に示唆的な作品です。「東京に原発を誘致する」と言う都知事の宣言から大騒動になります。原発は「絶対安全」ではない、ということをテーマにしていて、内容はコメディーなのですが、福島の原発事故が起こった今から考えると非常に先見の明がある作品なのでは、と思います。

東京原発の作品情報

東京原発のジャケット写真
レンタル開始日
2004/09/25
キャスト
役所広司 段田安則 岸部一徳
上映時間
110分
GEOで購入!
東京原発のユーザ評価

評価数:124件
評価 :★★★☆☆(3.6/5)

クチコユーザの評価・ネタバレ
  • 「東京に原発を」という着想はこれが初めてではない。同名の本を広瀬隆が1981年の昔に書いている。私はこれを読んで大いに共感したものだ。  しかし書物と映画とでは影響力が違う。全く知らなかった映画で、当時どのくらいヒットしたか判らないが、「東北大震災」(2011.3.11)の10年も前にこれを作ったという制作者の「先見の明」を褒めすぎることはない。  コメディタッチだが、原発の本質と原発行政のデタラメさを良く捕らえていると思う。さらに街を不夜城にしておきながら、原発は地方に押しつけようとしている東京都民の身勝手さへの「告発」も忘れていない。  広瀬の著書を読んで35年後の今も思うのだが、本当に文明に電力は不可欠だというのなら都心に原発を建設すべきである。都知事の言うように、送電線も要らず、副生する「熱」もコージェネなどで有効利用できる。安全性も格段に増すだろう。私も、都市の伸び続ける電力需要を満たすには、不安定な自然エネルギーでは頼りなく、これ以上温室効果ガスを増加させないためにも、原発を上手に使いこなして行かなければならないだろう、と考えているからだ。  何時までも会議室での議論に明け暮れているわけにも行かないので、物語の最後はMOX運搬車のハイジャックという抜け穴だらけのドタバタ劇になってしまったが、映画が提案している内容は、真摯に重い。
  • 2011.3.11から3年が経とうとする頃、脱原発が争点となった2014.2.9の 東京都知事選の日に鑑賞。 前半1時間くらいは、東京都庁の局長を何人か集めた密室会議の形式をとる。 そこで、都知事が東京に原発を誘致するという持論を展開する、ブラック コメディである。 先行レビューにあるように「12人の怒れる男」「12人の優しい日本人」の パロディなのだろう。 発電時に出た電力以外の余ったエネルギーを有効活用するだとか、経済効果が 云々といった、都政にとってもいいことずくめの原発誘致論を、その意味も よくわかっていない局長どもとともに聞いていると、馬鹿馬鹿しくもあるが、 馬鹿馬鹿しい論理をいかにも正当化して成り立たせることが政治というもの なのかと、恐ろしくもなってくる。御用学者を出席させようとするがうまく いかず、別の学者が出てきて警鐘を鳴らしたのが、唯一の救いなのだろうか。 後半は、放射性物質を輸送するトラックの乗っ取り・爆破を食い止める アクション劇となり、また違う側面からのブラックコメディとして、変化を つけている。
  • フクイチ壊滅以前にこれを見ていたら、そこそこ笑える陳腐な社会風刺サスペンスコメディ程度の印象だっただろう・・。この映画が作られた時点で、私が事故後初めて知るワードや、原発に関わるあらゆる現実・問題点がサラっと語られている。自分たちの無関心に痛いほど向きあわされる映画だ。ラストの知事の吐き捨てるような一言が、まだ解決のめどすら立っていない原発事故から、すでに急速に人々の関心が薄れてきている今の空気を予言している。ひとしきり笑った後、それが絵空事でなくなった現実に戻り、寒気がします。

参考URL
・youtube.com